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このテーマを思いついたのは、海辺の小さな小学校に通う、少女の何気ない質問がきっかけでした。
佐渡で一番キレイな魚は何ですか?
わたしが聞かれたわけではありません。総合学習を担当したベテランのダイバーがそう問われて、
その方は大人と子供を区別して、子供だましの返答などしない方でしたから、
食べておいしい魚や、高く売そうな魚を見ると、スゴイなあと思う。
と答えて父兄を笑わせたそうです。
少女はわかったような、わからないような曖昧な表情でした。
一見何てことない無邪気な質問ですが、不思議と胸に残りました。

少女はどのような返答を期待していたのでしょう?
わたしも一応は、かつてひとりの少女でしたから、
大人に堂々と質問できるくらい、度胸ある小学校高学年の女の子が、
無知な幼子だとはどうしても思えません。
もしかして彼女はこういう答えを期待していたのではないでしょうか。
テレビや水槽の中でしか見たことのない、色とりどりの愛らしい熱帯魚が、
佐渡の海にも泳いでいると。今日、海に入れば、それを間近に見ることが出来ると。

もしわたしだったら、どう答えていたでしょうか。
普段わたしが泳いでいるのは、ごく浅い海水浴場がほとんどですから、
滅多に聞かれもしないのですが、これは案外手ごわい質問です。

真っ先に思い浮かべたのは、いつかの春先、
夜の加茂湖で弟が釣り上げた、90cm級のスズキです。
たまたま飲み会の迎えに行って、大潮だし、ひと竿振ってから帰りたいというので、
わたしは釣りは全く、周囲もあきれるほど徹底的にしないのですが、
そう時間のいることでもないので、一度だけ付き合ったことがあったのです。
加茂湖の湖口では、80cm以上のスズキは、珍しくありません。
実際その前の週にも、弟はひと晩で2本釣り上げていました。
そんな幸運が続くわけもないだろうとたかをくくっていたのですが、
なんと第一投から釣果があったのです。
薄暗い街灯の下でした。巨大な銀色の魚が水面に浮かんできたとき、
わたしは咄嗟にスズキだとはわかりませんでした。
大きさに驚いたのではありません。
いつも見ている死んだスズキとは、全然輝きが違うのです。

同じことは、この夏、和木でも起こりました。
岸近くの浅瀬をうろうろ泳いでいると、
1mはあろうかと思う、空気の抜けた、銀色の魚型の浮き輪のようなものが沈んでいました。
やけにまぶしいメタリックシルバーで、妙なゴミもあるものだと思って近付いてみると、
まだ、かすかにエラが動いていました。

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サケガシラという深海性の魚だそうです。
ぺったんこの体型は、浮き袋を持たない深海魚の特徴のひとつです。
動転したわたしが電話などして、10分後に戻ってみると、
もう生きていないことは、一目でわかりました。
先ほどとは、はっきり輝きが違っていたのです。

佐渡では獲れたての新鮮な魚が商店に並びます。
誰もが、魚をよく見て知っているように感じていますが、
新鮮な魚と、生きている魚は別のものなのです。
見慣れたアジやイワシだって、群れ泳いでいるのを目の当たりにしたら、
感嘆の声を上げずにはいられないでしょう。
生きている魚はどれもはるかに美しいのです。

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死んでしまった魚には何の美しさもないのでしょうか?
いいえ、そうではありません。
佐渡の川にも少しずつですが、サケが遡上しています。
大きな河川では、上流で命を終えたサケは、森の養分になります。
その量は膨大なので、木々の年輪にはっきり現れます。
森の養分は川の水に溶け込んで、海に注いでいます。
サケのように海と川とを行き来する魚によって、
今度は海の養分が山に運ばれます。サケが森を豊かにしているのです。
佐渡は河川長が短いので、大雨が降ると、
このような死骸が一気に海まで押し戻されてしまうことがあります。
12月の両津湾岸の河口に、何匹ものサケの死骸が打ちあがっていました。
だいぶ傷んでいましたが、まだうっすら、婚姻色の紅の縞模様が見て取れました。
ここで朽ちて、何かしら別の生き物たちの糧になるのでしょう。
死体が朽ちてなくなるということは、ほかの生き物によって消費されるということです。
ひとつの死は無数の生を養っています。
こういう言葉が好きです。死んだ木のない森は死んだ森である。
海は溢れんばかりの生命によってだけでなく、
数え切れないほどの死によって輝いているのです。

熱帯性の魚は佐渡でも見られます。
主に秋から冬にかけて、それらは温かい潮の流れ、暖流に乗ってこの島にたどり着きます。
浅い海でもっともよく見かけるのはオヤビッチャです。
10cm程度の大きさで、きっと、南の海では地味なほうの魚でしょうが、
佐渡では、やはり目立ちます。大群で泳いでいることも珍しくありません。
わたしの知る限りでは、ソライロスズメダイやアイゴはしばしば見かけます。
スキューバダイビングをする人たちは、もっと多くの熱帯魚を報告しています。
このような南からの訪問者たちは、冬が来て、水温が下がると皆死んでしまいます。
このため死滅回遊魚などと呼ばれます。

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熱帯魚の派手さには及びませんが、磯の岸近くの魚たち、
メジナの青や、スズメダイのとび色、キヌバリの透き通ったコーラルオレンジ、
ナベカの金色、ベラ(キュウセン)のマルチボーダーピンクなんかも、心惹かれる色彩です。
なかでもスイという魚は、わたしの好みです。
小さい魚ですが、長い顔に幾何学的な万華鏡模様が浮かんでいるのです。

つらつら列挙してきましたが、
すべての魚が美しいなどという返答は、当たり前すぎてユーモアが足ません。
一年に100日程度は海に向かいます。たくさんの魚たちとの出会いがあります。
それでもまだ知らない魚が無数にいるのに、たった一匹を選び出すのは至難の業です。
思い切って、この一年に焦点を絞って考えましょう。
目を閉じると、うだるような暑さが蘇ってきます。

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昨年の夏は記録的な猛暑でした。
8月、間借りしている家の大家さんの一家が、本土から帰ってきます。
ひと夏をこの島ですごすためです。その間、わたしは実家に戻ります。
一年ぶりに会う長男坊は、5歳になっていました。
その子の要望で、釣りに行くことになったのですが、
5歳児と妹の2歳児が、安全に釣りを楽しめるような場所は、わたしの知る限り、加茂湖しかありません。
一家4人と、わたしと、釣りの師匠の弟(繰り返しますが、わたしは釣りは全くしません)で、
湖畔の鳥崎へ、ハゼ釣りに出かけました。

鳥崎は、加茂湖の湖岸がほとんどそうであるように、すっかり矢板に囲まれてしまっていますが、
アサリのよい漁場でもあるので、案外いつでも、地元の人たちが入っています。
その日に限っては、珍しく貸切でした。水の側にいるとは思えないほどの熱気でしたが、
嵐の前で、風があったのには助けられました。

わたしが釣りをしない最大の理由は、待てないからです。
せっかちな性分もあるのですが、根本的に人間性が幼稚なのです。
5歳児にとっても厳しい試練でしょう。キスやハゼを、弟はどんどん釣り上げるのですが、
男の子はなかなか得られません。
誰しも幾分飽きたような気色になった頃、自転車に乗った4人の小学生がさあっと現れ、
2人は泳ぎ、2人はわたしたちに並んで釣りを始めました。

声をかけると、明るくはきはきとした答えが返ってきます。
市街地のほうから、自転車で加茂湖を一周しに来たのだとか。
釣らないわたしは当然、泳ぐ支度をしてきているので、水中メガネを貸してあげました。
夏の加茂湖はよどみがちで、湖奥という場所柄もあって、かなり強い濁りが入っています。
少年たちは気にする様子もありません。
見えねーっ!などと叫びながら、水中メガネをはめて交代でもぐります。
小麦色に焼けた小鹿のような彼らのまわりを、
シアンブルーの背を光らせながら、コハダの群れがすり抜けていきます。

釣り組のふたりはなかなかの腕前でした。
次々にキスを釣り上げます。そのたびに、幼子はうらやましそうに近寄っていきます。
どちらも無言です。小学生の男の子と見知らぬ幼児では、交流は難しいでしょう。
最後に釣り上げた一匹は、かなり大きなキスでした。30cm近かったと思います。
少年たちは魚を持ち帰る用意をしてきていません。
リリースするか、道端に放って行くのだろうと見ていると、
つかつかと歩み寄ってきて、大家さんの息子に差し出してくれました。
これ、あげるよ。
あどけない少年の手に乗せられた、釣りたての、きらきらした宝石のような大きなキス。

そのキスが、わたしがこの夏に見た魚の中で、
確かに一番美しい一匹でした。
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夢のように美しい海、と言ったら、皆さんはどんな海を思い浮かべますか。

貝殻で敷き詰められた白い砂浜。
はるか水平線にスコールの気配を宿しているまばゆい青空。
その彼方から静かに寄せているコバルトブルーのさざなみ。
珊瑚の森を漂う極彩色の熱帯魚たち・・・。

多くのひとは、そういう海を思い浮かべるのではないかと思います。
せめてハゼやさまざまなカニたちの這い回る、
干潟の泥の海を思い浮かべてくれたひとはあったでしょうか。
もっと言えば、それはわたしたちのごく身近にある、
佐渡の磯ではいけなかったのでしょうか。

佐渡にはもはや、魂に語りかけてくるような、豊かな手付かずの自然はない、
などというようなことを言いたいのではありません。
いま、こうして何気なく書いている「美しい海」とか「豊かな自然」というものを、
一体どういう基準で判断すべきなのか、知らず知らずのうちに、
偏った価値観で世界を見てはいないか、
不安になるときがあるのです。

こんにち、テレビやネットの世界には、「キレイな海」の情報が溢れています。
多くのひとがその情報によって、「キレイな海」とはこうあるべき、
という紋切り型の価値観を、無意識のうちに刷り込まれてはいないでしょうか。
環境教育などということが、盛んに言われていますが、
もし小学生に、「佐渡に棲んでいる鳥の名前を挙げてください」と尋ねたとき、
真っ先に「トキ」の名前が挙がるとしたら、
それは非常に憂うべきことだとわたしは思うのです。
2011.01.24 両尾考
先日のイタチ侵入事件を生き延びたらしいネズミの1匹が、
昨夜、とうとうネズミ捕りにひっかかりました。
二階から何やら小鳥の鳴き声がすると思って見に行くと、
粘着シートの上にべったり張り付いた、子猫のような巨大なネズミ。
つやつやの栗毛を輝かせ、愛らしい瞳でじっとこちらを見つめています。
してやったりと思う反面、なんだか可哀想になってしまいました。

放してやるわけにはいきませんから、ひとおもいに殺したほうがいいのか、
このまま衰弱するのを待つべきか、ひと晩考えあぐねました。
すると今朝、また二階を走り回るネズミの足音がするではありませんか!
あわてて確認すると、シートの上にネズミの姿はありません。
かわりにごっそり抜けた灰色の毛。

思えば弥生の昔から、ネズミは百姓たちの最大の敵でした。
むこうも命がけですから、下手な情けは無用なのです。
あのターシャ・テューダーも、ライフルでネズミを仕留めた話を、
武勇伝のように誇らしげに語っていたではありませんか。
自然の中で生きるには、無責任な優しさではなく、そういう強さが必要なのです。

1月14日 12:00 両尾

両尾にはさまざまな巻貝が漂着します。
真野湾岸では砂浜に棲む巻貝が優勢なのに対して、こちらでは岩礁性のものが多く見られます。
カサガイの仲間もそのひとつです。これが巻貝とは、ちょっと驚きかもしれません。
多くは、潮間帯上部と呼ばれる満潮時の水面付近に、特定のすみかを持っています。
あちこち海藻を食べ歩いたあと、ちゃっかりもとの場所に戻って休むのです。

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ヨメガカサガイは、潮間帯上部でもっとも普通に見られるカサガイの仲間です。
岩さえあれば、どこにでも張り付いています。
意外にもおいしいらしく、地元っ子たちにはけっこうファンが多いのです。
もたもたしていると、岩にぴったりくっついてしまうので、
ひといきにはがして、その場で中身を食べるのです。
わたしは試したことはありません。実は、海産物の2文字シリーズがダメなんです。
カイ、カニ、エビ、イカ・・・
イカはわりと平気で、タコは好きです。カキも食べます。
エビ・カニは少しアレルギーがあるようなので、控えています。

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ベッコウガサガイは、ヨメガカサよりも甲高ですから、身も多いでしょう。
潮間帯上部の普通種です。裏から見ると見事なべっ甲模様が浮かび上がります。

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ウノアシ、とはなんとも言い得ています。フンのようにも見えます。
岩礁の波打ち際では普通に見られますが、ヨメガカサやベッコウガサほどには見かけません。
内湾の岩場よりも外洋の磯に多いように感じます。

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ツタノハガイです。波打ち際よりもやや深いところを好みます。

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オトメガサは、殻を失いつつあるカサガイの一種です。
体がはみ出して、殻を覆っています。ウミウシのように見えますが、
全く別のグループになります。生体は見たことはありません。
たくさん殻が落ちていますから、それなりに数はいるのでしょう。

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これはちょっと変わった貝です。キクノハナガイは、カサガイの仲間ではありません。
カタツムリの仲間です。
つまり、肺呼吸なのです。
ふつう貝は、エラから水中の酸素を取り込みます。
しかし陸に暮らす貝、カタツムリやナメクジは肺を持ち、空気呼吸をしています。
キクノハナガイは、そうした陸貝の仲間にもかかわらず、
カサガイたちに混じって、波打ち際で暮らしています。
カサガイが、潮を被る時間帯にだけ動き回るのに対して、
キクノハナガイは、潮が引いてカサガイが動かなくなる時間帯に活動します。
それはそれでうまく棲み分けているのです。

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緑藻が生えているところは潮間帯で、
その上部のぎりぎりのラインに群がっている小さな巻貝はタマキビです。
タマキビは海水を嫌う貝として有名です。水がかかると上へ上へと移動します。
肺呼吸ではありませんから、海水なしでは生きられません。
ヨメガカサはタマキビよりも上部に張り付いています。今は水位の下がる冬ですから、
もしかすると、夏にはこのあたりが潮間帯なのかもしれません。
こうしてみると、タマキビは案外、臨機応変に移動しています。
決してすみかを離れようとしない、ヨメガカサの頑なさが際立ちます。
こんな寒さにさらされて、大丈夫かしら。
2011.01.23 両尾考 ①
連日の大雪で、さすがに音を上げてしまいそうです。
昨日は昼ごろに出て、夜帰宅すると、屋根の雪が落ちて道をふさいでしまっている上、
車庫の窓が割れて雪とガラスが散乱していました。
遅い時間だったので、車庫の中だけおおまかに片付け、今朝は早朝から道路の雪かきです。
上にもう一軒あるので、そのままにはしておけません。
幸い一時間ほどですべての作業が終了しました。

1月14日 12:00 両尾海水浴場

年明けから両津方面へ行く機会がなかったのですが、久しぶりに両尾まで足を伸ばしました。
ここの貝溜まりで見られる貝殻は、真野湾岸のそれとは異なります。
一見同じような砂浜です。しかし、海の姿は違っています。
波打ち際から海底は見えませんが、貝の種類にははっきりと反映されます。

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サビシラトリガイは、両尾では最も多く見られる二枚貝のひとつです。
他の場所でも比較的普通に見られますが、
たとえば真野湾岸の長石浜、佐和田、両津湾の加茂湖の湖口近くなど、
砂の粒子が細かかったり、泥っぽかったりするような環境では、
見当たらなくなり、よく似たヒメシラトリガイが優勢になります。
ただし真野湾でも二見などでは混在していて、サビの方が多くなっています。
長手岬や莚場など、砂の粒子が粗い外海に多い印象を受けます。

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ケマンガイは今回はかなり拾えました。
右側のような、2~3年目と思われる個体が多数を占めています。

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これはヒメアサリだと思います。
アサリよりも、表面の模様や刻み目が緻密なことと、内側の色彩が鮮やかなのが特徴です。
あまり大きな個体は見かけません。
アサリは内湾性、ヒメアサリは外洋性と言われています。
長手岬でもよく見ます。

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ヒメがあればオニもあります。オニアサリです。
殻は厚く、膨らみは強めです。アサリのように利用するところもあるそうです。
砂~小石の海底に棲み、いたるところで見かけます。

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この貝はウミアサガイだと思います。
わたしは貝の同定には3冊ほど使用していますが、最終判断は
「エコロン自然シリーズ 貝」服部忠重/小菅貞夫 1996 保育社
に拠っています。
この貝は両尾では普通種です。ほかでは長手岬で見たことがあったと思います。

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トマヤガイです。
小石や礫の海底に固着しています。

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こちらはコベルトフネガイです。
岩礁に固着しています。
この2種については、後日長石浜のものと比較してみましょう。

さて、ここまで見てきてお分かりのように、両尾に漂着する二枚貝の種類には、
長手岬との共通点がある。
キメの粗い砂~小石~岩礁を好む。
外洋性の傾向がある。
などの特徴があるといえそうです。

地図を見れば明らかなように、真野湾に比べて、両津湾は開放的な湾です。
潮通しがよく、外洋的な性質が現れるのです。
両尾は北西風の影響も受けます。この風が、アオイガイ(カイダコ)のような、
暖かい海流に乗って暮らしている生き物たちを吹き寄せます。

長手岬は岩礁ですが、平らみのある岩礁には、いくらかの砂が堆積します。
閉鎖的な内湾と違って、波当たりが強いので、堆積する砂の粒子は粗めです。
そのようにして生じた小さな砂浜は、小木半島の波蝕台でも見られます。
もし岩礁がもっと低い位置にあり、水面より低いところに広がっていて、
より多くの砂が堆積するなら、岩礁はほとんど覆い隠されてしまうでしょう。
砂浜にところどころ、巨岩が沈んでいるような地形に見えるかもしれません。
たとえばそれが、両尾なのです。

両尾が岩礁地帯であることは、巻貝によりはっきりと現れています。
それはまた次回にゆずるとしましょう。
2011.01.21 海の鍵穴
たとえば釣りのために、年に何度も同じ海を訪れる人なら、
ご存知かもしれませんが、季節によって海水面は上下します。
潮汐とは別の変化です。同じ満潮時の水位を比較すると
夏に高くなり、冬には低くなります。
その差は日本海側では、40cm弱です。大潮の干満の差よりも大きいのです。

海水面や、水温、気候の変動に伴って、海藻の帯状分布もまた変化します。
四季折々、山や野が変容していくように、波打ち際もまた多彩な表情を見せます。
その一端はこんなふうに現れます。

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わたしが海の鍵穴と呼んでいるこのくぼみは、
小木半島の波蝕台によく見られる小さなタイドプールです。
これは3月です。
手前からわずかずつ新鮮な海水が供給されるので、鍵の部分だけサンゴ藻の鮮やかな桃色です。
まわりが真っ白になっているのは、冬の間ここが飛沫帯だった証です。
飛沫帯に生えていた海藻は、3月に入って天候が回復し始めると、
日光にさらされていっせいに白く枯れ上がってしまいます。
この現象は白化枯死と呼ばれています。
ふつう白化枯死が見られる範囲は、波打ち際のわずかなラインでしかありませんが、
この場所は平らなので、そのラインが広く引き伸ばされてしまっているのです。

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5月に入ると、初夏の日差しが浅瀬に容赦なく照り付けます。
海水の交換があるとはいえ、小さな潮溜まりにはすぐに温まってしまいます。
心なしかサンゴ藻も、しんどそうに見えます。
もしわずかでも海水が交換していなかったなら、すべて枯れ上がっていたでしょう。
そういう運命をたどるタイドプールも少なくないのです。
一面白化していた鍵穴の周囲には、緑藻などがちらほら生えています。
海水面が上がり始め、うっすら海水を被るようになったのです。

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6月には周囲も完全に水没してしまいます。
鍵穴の部分にはサンゴ藻が生き延びているので、緑藻は侵入していません。
右側、緑藻のまばらな一帯には、サンゴ藻が復活しているのがわかります。
あんなに真っ白に枯れ上がっていたのに、案外しぶとく生き延びていたのです。

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9月には水位は最大になります。
こうなると海岸の様相は一変し、同じ場所を探すのもひと苦労です。
サンゴ藻はますます退色し、かわりにこの時期よく繁茂するウミウチワの白が目立ちます。

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再び冬が来て、年末までに水位はかなり下がります。
あの桃色の鍵穴が現れました。周囲の飛沫帯はまだ岩がむき出しになっています。

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2月、飛沫帯を黒っぽい海藻が覆っています。紅藻ですが、岩のりではなく、
もっとしっかりと岩を抱き込んで、這うように生えています。
カイノリだと思います。この場所は北西風の風裏にあたるので、
岩のりが生えるには適していないのです。
このような姿が見られるのもあとわずかでしょう。3月には枯死する運命です。
真っ白い台地の上に、鮮やかな薄紅色の鍵穴が浮かび上がるとき、
春はもうすぐそこまで来ています。

さて、翌年の5月、再びこの場所を訪れてびっくりしました。
前年は緑藻とサンゴ藻のコントラストが素晴らしかったのですが、
今回は緑藻ではなく褐藻のフクロノリが大繁殖していました。
フクロノリもまた、浅い海や波打ち際を好んで生えます。

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よく、自然は循環しているといいますが、こうしてみると、
ちょっとした条件の違いで、少しずつ変容していて、
同じ円の上を単調に巡っているわけではないことがわかります。
佐渡にはいくつもの海があります。
多様な特性を持ったさまざまな海がある、ということです。
渚の風景はもちろんのこと、海岸が違えば海の中の景色も違う、
当然、そこに暮らす生き物たちの種類も変わってきます。

このことについて考えてみましょう。

以前植物学の先生がおっしゃっていたことは、
この佐渡島では、生物の帯状分布を、ぎゅっと圧縮された形で見ることが出来る。
たとえば海から徐々に山になっていくような斜面を考えると、
標高に応じて生えている植物の種類や、木の背の高さなどが変化します。このことは、
経験的に誰でも知っていると思います。同じ特徴を持つ区域は帯のように広がって、
それが階段状に積み重なって変化してゆく。これを帯状分布といいます。

海の帯状分布はもっとはっきりしています。
そもそも帯状分布は、陸上では普通、非常になだらかな推移ですが、
海岸、特に岩礁では短い区間の間にはっきりと見ることが出来ます。
下の写真を見てください。3月の、松ヶ崎の防波堤の波打ち際です。
この時期の典型的な帯状分布です。

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この写真の上が海で、下のほうに向かって、護岸のブロックが少しずつ高くなっています。
一番下のブロックは水没していて、水面に髪の毛のようなものがゆらいでいるでしょう。
常に水中にあるので、褐藻が生えているのです。
二段目は紅藻と、波打ち際によく出現するような背の低い褐藻が少し。
三段目は緑藻です。

一般に緑藻は短命で、日和見主義者(オポチュニスト)と呼ばれます。
条件がそろえば生えるし、合わなくなればさっさと消えてしまいます。
水深が浅く、海藻にとっては環境の厳しい場所にもかなり適応します。
海水の汚染されやすい都市部の沿岸でも、しばしば大繁殖して問題になります。
三種類ある海藻のうちでも、陸上に進出した植物の祖先は緑藻でした。
地上のあらゆる植物が、輝く緑の葉を広げているのは、
この遠い祖先から受け継いだ資質なのです。
海の生き物である海藻にとって、淡水や陸地は、苛酷な環境でした。
適応力に優れた日和見主義者だからこそ、今日の繁栄を築くことが出来たのでしょう。
この最強のオポチュニストの生き方には、案外人間も学ぶところがあるかもしれません。

4段目ははっきり見えないかもしれませんが、真ん中あたりに黒っぽい線が入っています。
ここには飛沫帯を好む紅藻の一種が生えていて、すっかり乾いて張り付いていました。
海が時化るとここまでしぶきが飛んでくるのです。

陸の帯状分布は圧縮されていますが、海の帯状分布は典型的な日本海沿岸のそれです。
日本海側の帯状分布は圧縮されます。干満の差が小さいからです。
むしろされすぎてつぶれたり、重複したりする傾向にあります。
それでも、亜高山から水深100mに至る生物の分布の推移をすべて、
この小さな島の中で実感できることは幸いです。

海藻の帯状分布は岩礁のいたる所に発生しますが、
こんなふうにはっきり見られるのは、せいぜい4月ごろまででしょう。
3月に入ると風は穏やかになり、海は鎮まります。
温かくなり、日の差す時間が長くなると、
3段目や4段目に生えているような海藻は死滅してしまいます。
夏は海の冬となり、枯野が広がります。
海藻が再び繁茂し始めるのは、水温の下がる10月ころからです。

言いかえるなら、10月から3月の寒さのころは、泳ぐには厳しい季節ですが、
海岸を歩いて帯状分布を体感するには最適です。
土曜日、また家に帰れなくなってしまいました。
4kmも手前からわだちがなくなっていて、アヤしいな~と思っていたら、
やっぱり、あと1kmほどのところで、小さな雪崩が道をふさいでいました。
なんとか車をUターンさせ、実家へ。
こちらもかなりの積雪になっていました。

家へ帰るつもりだったので、着替えも洗顔用品もありません。
あるものでどうにか間に合わせ、一夜明けてみると、
長靴が埋もれてしまうほど積もっていました。
父も弟も、小正月行事の「とうらやさん」やら仕事やらで出かけてしまったので、
やむなくわたしが雪かき担当。
家から一般道まで100mほどなのですが、3時間ひたすら雪を運び続けました。

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雪かきって、つらいんだけど、
やり終えると達成感があって、一瞬だけ楽しいんです。
さあ、これで準備万端、山へ戻るぞ!
意気込んで坂道を下って、一般道へ出たとたん、あえなく雪に埋もれてしまいました。
先に出た父や弟はトラックでしたが、わたしのハコバンではムリがあったみたい。
あ~あ、日曜日は一日、ひとり家にこもって過ごす予定だったのに。
このあたりは限界集落なので、一般道の除雪は一番後回しです。
結局、除雪車が来て山へ帰ったのは暗くなってからでした。
2011.01.14 冬びいき
毎日毎日、雪に塗り込められて過ごしています。
この冬は冷え込みが厳しく、雪がずんずん降り積もります。
新年を迎えて以来、ここ数年のようには気温が高くないので、
雪がさらっとしているのは救いです。
雪が湿っていて重いと、重みで木が折れて、停電することが多いのです。
去年もおととしも、丸二日ずつくらい停電しました。
沢の出水をポンプで上げて使っているので、蛇口から水が出なくなって本当に困るのです。

冬が冬らしく、ちゃんと寒いのはうれしいことです。
子供の頃の冬はいつもこんな感じでした。
越後と違って、佐渡は雪は少なめですが、風はいつも強い。
寒風に吹かれながらの登下校は大変でしたが、まっさらの雪原のような田中の道に、
新しい一歩を記すのは心躍る瞬間でした。

外が吹雪で、何の用事もないような冬の日、
わたしは気張って、丸々一日、家の中で過ごします。
薪ストーブを贅沢に焚いて、足元が冷えるのであんかを用意して、
前日の夜に焼いておいたケーキをつまみながら、机に向かいます。
少しでも天候が良いと、とにかく外に出なくちゃ、と思ってしまうけれど、
吹雪なら、その必要はないでしょう。
今日はどこにも行かなくていいんだと思って、心底ほっとします。
残念ながらそんな日は、一年に数度、あるかないかですけれど。

わたしはずっと日本海側で暮らしてきましたが、
一度だけ、冬の太平洋側に行ったことがあります。
冬の1月だというのに、空には雲ひとつなく、どこまでも晴れ渡り、
空の高みをめがけて、上へ上へと伸びた木の枝は、天頂を振り仰ぐほどに高い。
雪国では、圧雪樹形(あっせつじゅけい)といって、
雪の重みに耐えるために、木々の背は低くなるのです。
大人も子供も外に出て、公園でおおはしゃぎ。
とてもここでは暮らせないと思いました。
太平洋側の出身の人は、日本海側の暗い冬に気が滅入って、
鬱になってしまうこともあるとか。
きっとわたしは逆なのです。
冬中、こんなに晴れていたら、落ち着かない心地になって、
毎日、わけもなくそわそわして過ごすでしょう。
それよりは雪に塗り込められて、
じっと家の中で春を待つほうが、わたしの性分には合っているのです。

雪のおかげで、助けられることもあります。
どうやらここ数日、家にイタチが入ってきているようなのです。
テンが入っていたこともあります。土間にあるものを何でも食べ散らかすので、
さすがに頭にきて、大きな穴はすべてふさいであります。
秋口のころから、二階の床下にネズミが住み着いていました。
これが大変な厄介者で、断熱材にもぐりこむ音や、壁をかじる音がうるさくて、
夜中にしょっちゅう目が覚める始末。
今朝も暗いうちに起こされて、またかと思っていると、
どたん、ばたばたっ、といつもとは違う大きな物音です。
直感的に、ネズミよりも大きな生き物が来ているとわかりました。

夜が明けて出て行ったのか、静かになったので、二階へ行ってみると、
案の定、縄張りを誇示するかのように、階段に脱糞のあとが。
大型の動物が少ない佐渡で、考えられるのはイタチくらいです。
それにしても、どこから入って来たのでしょう。
何気なく窓の外を見ると、答えがわかりました。
床下から、不自然に始まっている足跡がひとつ。
そのあたりに、水道管を引き込むための穴が開いているのです。
ふふ、真っ白い雪は、なんでもちゃあんとお見通し。
先客のネズミはイタチが退治してくれたみたいだし、あとはこの穴さえ埋めてしまえば、
明日はゆっくり朝寝坊できそう。
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夜のうちに、思いがけない訪問者があったみたい。
普段庭をうろついているのは、タヌキか、せいぜいテンなのだけれど、
これはサドノウサギだと思います。

足跡がしっかり残っているところを見ると、夜明けごろかも。
未明は雪が降っていました。佐渡ではたいてい、朝のひとときは雪がやむのです。

てんてんてん、と雪の上を横切っていく真新しい足跡。
ここでちょっと立ち止まって、考えごとしたのかな。
1月8日 11:30 長石浜・国府川河口付近

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ツノナガコブシガニの完全体の死骸が打ち上がっていました。
強い波で浜に打ち上がり、海に戻れず死んでしまったのでしょう。
甲羅の大きさがわずか10円玉程度のこの小さなカニにとって、
狭い砂浜も無限に広大なのです。
頭部がつんと飛び出しているのと、鮮やかな脚の縞模様が特徴です。

時々考えます。いつか最期のときが来たら、
このカニのように、ただ一個の生命として人生を終えたい。
死んだときに、何人の人間が泣いてくれるかで人生の価値が決まると考えるひとがいます。
一日一日をどれだけ精一杯生きたかで、人生の質を量りたい、と言ったひとがあったのは、
非常に画期的な方法だと思ったりもしました。
結局のところわたしは、人生の価値を量るなどということには興味がないのです。
砂浜の無数の貝たちのように、とるに足りぬもの、
ありふれたひとかけらとして、自然の法則を受け入れたい。
そしてかなうならば、白い小さな破片を、たとえば冬の晴れた日に、
静かに波の寄せる渚に打ち上げたい。
見知らぬ誰かがそれを拾い上げるかもしれない。
あるいは砕かれて砂に還り、
その上を小さなツノナガコブシガニが歩くかもしれない。

この日はこれまでで一番素晴らしい貝溜まりに出会えました。
砕かれたり、うまく打ち上がらなかったりで、
出会う機会の少ない貝たちがたっぷり。こういうときには、本当に時を忘れてしまいます。

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左はカイコガイだと思います。右はキセワタです。
生体はいずれも、巻貝というよりウミウシに近い形態になっています。
残念ながら生体は見ていません。
砂浜の生物の多くは夜行性で、昼間は砂にもぐって身を隠しています。
ナイトダイビングをするとお目にかかれるらしいのですが、
わたしは夜はまだ試したことがありません。
この日はかなりの数が上がっていました。
ここには砂浜の妖精が、きっとたくさん棲んでいるのでしょうね。

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チヨノハナガイだと思います。長石浜ではしばしば上がります。
殻は半透明で薄く、そのくせ、成長肋と言うのですが、
横しまがはっきり掘り込まれていて人工物を思わせます。
こういう殻の薄いタイプの貝は、穏やかな内湾の泥の海底を好むようです。

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ツメタガイの仲間のネコガイです。なぜかわからないけれど、猫です。
この仲間には、リスガイやネズミガイや、トラダマなんかもあるのです。
これは特に小さ目とは思いますが、もともと3cmくらいの比較的小さい巻貝です。
両尾で1回だけ拾ったことがあります。今回は極小のものがたくさん落ちていたので、
普通にいるんだと思ってびっくりしました。

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これはウニですが、どのウニの仲間なのか、見当もつきません。
成長してこのサイズではないだろうと思います。何もかも謎です。
花びら模様の先は開いていて、裏面の中央に口があります。
きれいな楕円形でした。
ウニというと、なんとなく磯のイメージがありませんか。
実際には、砂浜に暮らすウニは多様で、種類豊富なのです。
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