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しとしと、雨に塗り込められた、湿っぽい暁闇の底から、
さびしい風のような、鵺(ヌエ)の声が響いています。

下界の人々が、ウグイスの呼び声に春を実感するように、
山里では、降りしきるぼた雪の彼方から、
アカゲラのドラミングが聞こえてくるときが、冬の終わりを知るときであり、
鵺の声にふと目覚める暗い朝が、
春の到来をかみしめるときなのだと、わたしには思われます。

悲鳴のような薄気味の悪い鳴き声のために、
サルの顔に虎の手足を持つと考えられた妖怪、鵺の正体は、
ヒヨドリほどの大きさしかない、臆病なトラツグミでした。
子供の時分から、寝つきの悪かったわたしには、
皆が寝静まったあとに聞こえてくる、か細い、悲しげな鳴き声が、
奇妙に慕わしく、不思議で、必死に耳を澄ますうちに、
いよいよ目が冴えて眠れなくなるのが常でした。

恐ろしいと思ったことはありませんでしたけれど、
振り絞るような声に呼ばれて、窓の外を見遣ると、
明るい月が、降り注ぐ露をきらきらと輝かせるばかり。
また闇の夜などは、枕元で鳴いているかと思うほど声が近くなるのに、
いっこうに正体が見えないのは、まったく口惜しい心地がしたものです。

今では、なんとしてでも見てやろうという心意気は失せて、
遠くなり、近くなりするさえずりが、
移ろう季節を教えてくれるのが、ただただいとおしい春の鵺です。

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