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ついこの間まで、ヤマザクラがホログラムのように咲いていた山肌を、
ひと息に夏が駆け上がってゆきます。

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妙見山の山頂には、新緑の青海波(せいがいは)が迫ります。

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天野尚さんのお写真で、一躍脚光を浴びた妙見山のキャンプ場のヤマザクラは、
なんという種だったか、お詳しい方に、
何度か教えていただいたことがあるのに、すっかり失念してしまったのですけれど、
確か高山性のミネザクラだったのではないかと思います。
大佐度の稜線でちらほら見かける、背の低い遅咲きのサクラです。

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肝心のお写真の、構図もろくに覚えておらず、
お恥ずかしい限りなのですけれど、それはそれは絵になる桜なのです。
この日も、何人もの愛好家たちに取り囲まれていました。
残雪と新緑の背景が、圧倒的な存在感を引き立てます。

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花色は淡く繊細で、小ぶりな花は凛とした印象。

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繰り返される豪雪の冬を経て、千々に引き裂かれた幹の姿から、
『千竜桜』なる名称で呼ばれることもあるとか。
近年までほとんど顧みられることなく、ただ泰然としてそこにあり続けた、
その歳月に敬意を表して、むしろ名のない桜のままでいさせたい。
そんなふうに思うのは、あまりにわがままがすぎるでしょうか。

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樹下に咲くエフェメラルたちも、天衣無縫な自然の配置です。
小佐渡ではとっくに散ったカタクリやイチゲが花盛り。
イチゲは殊に青味が強く、夏空を映し込んだかのような色彩です。

ひねくれ者のわたしは、正直なところ、名木と呼ばれて、
広く世間に知られているような木には、さほど心惹かれないのですけれど、
このサクラのことは、母がとても気に入っておりました。

百姓仕事と、いつまでも自立しない子供たちの世話に追われて、
働きづめの短い生涯でした。
この小さな島の隅々まで、見飽きるほど出歩くという機会もなく、
佐渡の名所、名木など、たかが知れたものも少なくはないのに、
名の通った場所や、評判の木を、実際に見ることが出来たというだけで、
いつも子供のようにはしゃいで喜んだものでした。

死の前年、母とふたり、公民館の植物観察学級に参加して、
1年をかけて、島内のあちこちを見て回れたのは、奇跡のような偶然でした。
楽しい寄り道をしながら、スカイラインを登り、
正午近く、妙見山のキャンプ場で、この老木に出会いました。

先生のお話を、いかにも神妙に聞いていたのに、
サクラの名前までもすっかり忘れてしまいましたけれど、
母とふたり、昼食の後で、樹の下のカタクリのベッドに寝転んで、
束の間の眠りに就いたのだけは、とてもよく覚えているのです。

あれは風薫る五月でした。
その翌年、病院のベッドの上で、点滴につながれて過ごした5月とは、
なんという違いでしょう。
いま、母のいない5月にも、同じように咲いている桜、
わたしたちが生まれる以前から、そして死んだあともずっと、
変わらず、同じように咲き続ける、1本の名もない桜。

その木の下で目を閉じると、5月はただひたすらに美しい5月なのです。
うらうらとした陽気に照らされて、
ふとまぶたを開ければ、今も傍らに母がまどろんでいる。
そうであったなら、どんなによかったか。

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