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南限植物が多産する西三川海岸は、大立まで延々と続くのですが、
距離も長く険しいので、徒歩はあきらめ、車で倉谷の智光坊まで引き返します。
この付近から海岸に降りられると聞いていたのですが、
それらしい場所は探せずに、地元の方にうかがうと、
ここからは無理なので大立から降りるように、とのお答えでした。

崖下をのぞき込むと、確かにかなりの絶壁です。
わたしも相当うろ覚えだったのですけれど、なおも食い下がると、
渋々ながらも、今はほとんど使われていない、
かつての船小屋へ至る小道を教えていただきました。

そこと思しき降り口まで来て、我が目を疑いました。
それはもう道などではなく、絶壁が幾分やわらいだ谷を、小川が流れ落ちている、
その川筋に沿って、胸まである草薮の中をぬってゆかねばなりません。
なるほど、最初の返答の歯切れが悪かったのもうなずけます。

そのつもりの装備ではなかったので、ちょっと気乗りしなかったのですけど、
海岸に降り立ってみると、来た甲斐がありました。
一面のスナビキソウに、数頭のアオスジアゲハが飛び回っています。

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スナビキソウは、地中に長く根を伸ばし、
熱砂やごろた石の下を流れる水脈の上に生じるとか。
今下ってきた沢の水が育んだ大群落です。

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スナビキソウの純白も、アオスジアゲハの浅葱色も、
曇天の下で光り輝いて見えます。

砂浜にも転石海岸にも生育し、それなりの適応性を備えた植物なのに、
各地で急速に数を減らしていると言われています。
スナビキソウはまた、旅をする蝶、アサギマダラの好む植物として知られ、
初夏、この花の開花に合わせて、いっせいに北上したもののうち、いくらかが、
越佐海峡を渡り、花の高原、ドンデン山でひと夏をすごします。
ここにも、人知れずアサギマダラの群れ飛ぶときがあるのかしら。

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スナビキソウの傍らに、こんもりと盛り上がって生えているのは、
ハマハコベの一株です。花はハコベに似ていますが、
全体的に肉厚で、多肉植物の雰囲気があります。

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ハマベンケイソウも同様の環境に生育するはずなのですが、
まだ花時期には早く、今回は探せませんでした。

ウミミドリ群落も散在しています。
何度見てもいとおしい花。
ひそやかに生き伸びてきた強靭な命。

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佐渡には手付かずの自然が広がっている、と都会の人びとは思うかもしれません。
しかし自然が、北緯38度線と、季節風という偶然の奇跡を配したように、
歴史もまたこの島に、遠流(おんる)の地、黄金の天領、
田中角栄を輩出した新潟県下、という怒涛の変遷をもたらしたのでした。
今ある佐渡の自然の多くは、良くも悪くも、1度踏み荒らされたあとの風景であるように、
わたしには思われます。

もし、手付かずの本当の自然の海岸というものがあるなら、
それはこの倉谷の崖下に細く伸びている、
スナビキソウとハマハコベとウミミドリの楽園ではないでしょうか。
この要害の地は、今後も長く守られるでしょう。
佐渡にありながら、このような場所が今も残っている、ということに、
誇らしいような感動を覚えずにはいられません。

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そして今、ひとりこの海岸をわたしは歩いている。
伊藤先生に導かれて歩いている。
あれはスナビキソウ、ハマハコベ、向こうにはウミミドリ。
傍らで、丁寧に、ひとつひとつを慈しむように、
教えてくださるのは、確かに先生ではないか。

最後にお会いした十数年前、公民館の自然観察会で、
金北山の防衛道路のブナ林を訪ねた折、
先生のお話中に、一部の参加者が、
話も聞かず、悪びれもせずに、道路脇の山菜を刈り採っていた、
彼らを寂しげに見つめる先生の視線が忘れられません。
わずか十数年前には、それが一般的な環境意識であったのだ、
ということも、決して忘れてはならないことだと、自らの戒めにしています。

晩年には、ご病気のために、ベッド上での生活を余儀なくされたと聞いています。
その闘病の日々の中でも、決して枯れることのなかった情熱は、
今も、永遠に朽ちることのない、瑞々しい精神として、
この島にとどまり、萎えることのない手足を得て、
消えることのない輝きの中を歩き続けておられる。
ウミミドリの花の間を歩いておられる。

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