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2011.07.01 定家と内親王
梅雨時の森には、心なしか熱帯雨林の雰囲気があります。

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昨日、海からの帰り道、谷沿いを走っていると、
ひょろりと背の高い木の幹に、絡みついて咲いていた大好きな花。

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テイカカズラです。愛らしい純白の花も、芳香も、ジャスミンに似ていますが、
全く別の種で、キョウチクトウの仲間です。
初めて見たのは別の場所でした。薄暗い林の中の小道のところどころに、
生い茂る木の葉の加減で、スッポトライトのように光が当たっていることがあるでしょう。
その光の水たまりの中に、この白い花がはらはらと散っていたのです。

テイカ、というのは藤原定家です。
平安から鎌倉への時代の転換期に生きた歌人で、
新古今和歌集と新勅撰和歌集の編纂にたずさわりました。

この美しいツル植物と、定家のつながりは、
名前を教えてくださった方もご存知なく、謎でした。
思いがけず謎が解けたのは、
昨年から、まったく行きがかり的に、能の謡を習っているのですが、
『定家』という演目があるのです。
能の大成者、世阿弥の娘婿であった、金春禅竹(こんぱる・ぜんちく)の作です。
世阿弥の最期を看取り、その思想的後継者となった彼は、
より難解で神秘主義的な作風だったと言われています。

物語はこうです。
旅の僧が、葛(かずら)にうずもれた野辺の墓の前を通りかかると、
やせ衰えた女の幽霊が現れます(お決まりの導入です)。彼女が言うには、
自分はかつて内親王の身分だった者である。
定家の恋慕の情が、怨念の葛となり、
墓に巻きついていて苦しくてかなわない。
どうか御仏の力で成仏させて欲しい、と懇願します。

夜通しの読経によって女は精気を取り戻し、喜びの舞を踊ります。
ここまではよくある展開で、世阿弥だったらここで幕切れとしたでしょう。
禅竹はそんな生ぬるい大団円を許しません。
夜明けと共に、女の面に苦渋がよみがえり、
引き戻されるように墓の中へ消えてゆきます。
法力よりも恋の執念が勝利するのです。

この物語は、非常に斬新な印象を与えます。
定家と式子内親王の恋は、定家が、死にゆく内親王の衰弱の様子を、
克明に日記に記していたことから、すでに伝説的に語られていました。
かたや皇族、定家は藤原氏でも二流の出身です。
身分違いで13歳も年若い定家との秘められた恋は、
男の執着という、思いがけない形で死後の世界に持ち越されていました。

白い可憐な花は、そんな凄惨な恋とは無縁に見えます。
もう一度最初の写真をよく見て下さい。
薄暗い森の底から這い上がり、木の幹を覆い尽くして空へと至る、
ツル植物の生命力というのは、実にすさまじいものです。
大事なよりどころであるはずの、元の木を枯らしてしまうことさえあるのです。

この植物に、テイカカズラという名を与えたのは、禅竹ではなく後世の誰かでしょうが、
清廉な純白の花に、濃厚な芳香、絞め殺さんばかりに絡みつく情念の激しさは、
まさに恋の妄執を表しきっていて、むせ返るような梅雨の晴れ間にこの花に出会うと、
能の一曲を見終えたあとのように、
息を呑むような、深遠な感動に包まれるのです。
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